ものを作る上で一番大切なのは、どんな素材で作るのかということではないでしょうか。
特に私たちの作る服のように身につけるものの場合、直接肌に触れるのが素材=生地なわけで、その風合いや肌触りの良さが、その製品の良し悪しを大きく左右することは言うまでもありません。
kapocの新しいラインナップの中に使われている「東炊き染めリネン」は、私たちが特にその色と風合いに魅了されて採用された染色技術の素材です。
東炊きの生地で作ったkapoc SACK / duck brownとkapoc PONCHO / vintage linen white、
東炊きで製品染め(ガーメントダイ)をしたkapoc 2nd.
今回はその現場である東京墨田区の川合染工場さんに伺い、製作への思いを聞いてきました。そこで見えてきたのは日本のものづくりの過去と未来です。
「高度経済成長で日本のものづくりはどんどん画一的でつまらないものになっていったんです。日本の美意識や日本で作る意味などどこへやら。だから気がつけば、染色業の9割は廃業に追い込まれた。これではダメだろうと。。もっと服づくりの原点に帰って、人々を幸せな気持ちにさせるような良い素材を作りたい、手間がかかっても自分たちが納得のいくものを作ろうってことで、始めたんです。完成は2014年でした。」
東炊き染めは左のような小さな釜。右側の大きな釜と比べて半分程度なのがわかります。
着目したのは江戸時代の染め方。
当時、五右衛門風呂と呼ばれる人一人分しかない小さな釜に染料と生地を入れて棒でかき回して染めていました。
これにヒントを得ました。(江戸=東京から生まれた染めという意味で、東炊きと命名されたそうです。)
小さな釜で少量染めると、生地と生地がよく揉まれ、非常に柔らかく、くたっとした良い風合いが生まれます。
そのかわり、よく揉まれる分、生地の縮みはとても大きい。そしてシワも多い。
生地が縮んで小さくなるとその分服に使う量は増えるから割高になります。シワのある生地は往々にして、不良とみなされたり、生産者から扱いにくいと敬遠されがちです。
しかし、この縮みがあることで目が詰まり生地のハリも生まれ、独特の柔らかさも出る。
きっと縮むことを恐れていてはたどり着けない風合いです。
そしてシワは、硬いシワではなく柔らかくて細かいシワ。それは生地に立体的な膨らみを与え、表情となり、東炊きの魅力そのものになっています。
この細かいシワがあるおかげで、座った時にできる大きなシワを目立たなくさせてくれ、リラックスして着られるという嬉しい利点も生まれます。
ものづくりの現場というのは、そのほとんどが地味で地道な工程。私たち素人には単純な作業にしか見えません。
しかし、この地味な工程の中にこそ、決して安泰ではなかった染色業界の歴史背景のもと、苦労の末に生み出された知恵と工夫が入っています。
「もちろん、染め釜が小さいだけではこの風合いは生まれませんよ。それ以外にもいろんなことを試しました。例えば染める時に生地をリラックスさせるには、何を入れたらいいのかとかね。でもそれは教えられないですよ。笑」
現場で染め上がった東炊き染めガーメントダイのvintage linen white。
膨らみのある表情はご覧いただけると思います。そして感触はリネンともコットンとも言えぬ軽さと柔らかさでした。
このkapoc 2nd.は7月上旬に発売されます。
川合社長は語ります。
「少量しか生産できない、染めた時の縮みは大きい、シワも出る。規格に厳しい相手先様には到底取り扱えないものです。しかし、この風合いの良さは、瞬く間にみんなを虜にし、商品化されました。決して多くはありませんが、それがむしろ価値を創造し、今や私たちを代表する看板商品になりました。「東炊き」の商標登録も取得しました。」
「しかしこれで終わりではありません。これからは日本だけでなく世界を相手にビジネスをやっていかなければ、未来はやってこないでしょう。私たちが染色で使う薬品の数々が、世界基準で100%安全だと認定されるものでない限り、世界では全く相手にされないのです。」
「その当時、日本での安全基準は世界基準ではありませんでした。つまり日本でOKでも世界ではNGだったわけです。そこで私たちは、アジアでは唯一シンガポールでしか申請できない検査所で、世界基準の安全認定を取得することができました。ですから私たちは堂々と安心な商品ですと胸を張って世界でビジネスができるんです。」
「一つの例として、色の堅牢度(色落ちのしにくさ)を申し上げれば、草木染めや藍染のように、色落ちの懸念があるものでも、”環境に負荷が少ないことの方に重きを置くと、ある程度の色落ちは致し方ない”という判断が世界基準になっています。東炊きにおいてもこの考え方に沿っているため、認定されていない薬品を用いてまで完璧に色落ちを防ぐような方法は取っていません。」
「だからといって、この東炊きに対して、クレームが起きたことはありません。おそらく少数ですけどこういう商品に対して理解のある方だけが購入し、丁寧に扱っていただけてるからなのではないかと思います。
時を経て、少しづつ褪せた色の美しさは、何十年何百年のちまで残った古い衣装を見ている私たちにはわかります。そういう美しさをしっかりと表現することこそ、私たち日本人がとるべき道。その美意識や価値観をずっと抱きながら、この仕事を続けていきたいと思っています。」
東炊き染めに出会えたことは、私たちkapocにとってとてもラッキーだったかもしれません。
なぜなら私たちも量ではなく質でお客様の満足を得たいと思ってkapocを再スタートさせたからです。
それがきっとものを大切に扱うことに繋がり、最終的に環境に配慮したものづくりに繋がると信じています。
少しづつでもいいからこの良さをお客様と分かち合っていきたい。そう思っています。
(2021年6月15日 取材:渡邉)